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選書プロジェクト 第1号


ネットプリント番号:07318275(1/21まで) 



― 英知を磨くは何のため 君よそれを忘るるな ―

 このブックレットはSACのメンバーの道しるべである本をまとめたものです。SAC(Soka Academic Community)とは、創価に学んだ有志が、平和な世界―自由で平等で民主的なーを築くための、ゆるやかな学術的なアクションです。 

 今、日本の政治はどんどん平和から遠ざかっています。世界情勢にも、希望は抱けません 先の見えない今だからこそ、自分自身が試されている、書物を手に取り「学ぶ」事が求められているのではないでしょうか。 

 「学ぶ」とは何でしょうか。人間は生まれた時から、ゆっくりと気付かないうちに「あたりまえ」をうけいれていきます。ただ、それは、今、その時代の「あたりまえ」でしかありえません。「お国のため死ぬこと」が常に正しくはないように、常識は「正しさ」からかけ離れている事もあります。そのことに「気づく」ために「学ぶ」のです。知性とはこの世界にこびりついた「あたりまえ」への問いかけであり、「本当のこと」のあくなき探求であります。学は先の見えないこの世界を照らす光であり、今、社会に希望が見えない事こそ、本当の学が失われつつあることの証明のように思えてなりません。

 書物を手に取ることは問い、求め続けることの第一歩です。このブックリストにまとめられている30冊は、日本と世界で現在進行形で起きている不正義と、それと戦っている人たちを理解するための本です。つねに立ち止まらないこと、考えないことを拒否することには勇気が必要です。勇気を奮うため、知性を鍛えぬくための本です。

 そして、このブックリストで紹介する本は、私たち自身であります。誰のために、何のために私たちは学ぶのか、創価大学の建学の精神を常に胸に抱き、私たちは思考し、そして行動します。 「人間主義、人間原点の社会をつくるには、指導者が本格的な大文学を読んでいなければならない。これは非常に重要なことです」。(池田大作『青春対話』聖教新聞社)

― 特集【沖縄】十冊―

さ世しまんち
みるく世や
やがて嘆くなよ臣下
命どぅ

「戦世」は終わった
平和な「弥勒世」がやがて来る
嘆くなよ、おまえたち、
命こそ

 沖縄は第二次世界大戦で住民の三分の一が犠牲となった地上戦を強いられ、そして今でも日本の米軍基地の75%が集中しています。沖縄の人達は基地がここにあるのは「問題」だといいます。「基地問題」といいます。あの戦火を生き残った人たちは、このまま、私たちが死んで、基地のない、沖縄を知らない人だけになって基地があるのを「あたりまえ」だと言われるようになるのが怖いというのです。
 その言葉を聞いたとき、私は、この国は、どれだけの問題をあたりまえにしてきただろうかと、思うのです原発、格差、差別、いつの間にか、社会にゆっくりと諦めが蔓延して、あたりまえにしてきた何か。仕方がない、変わるわけがない、どうしようもないそういう諦めがやがて、無関心になって今、大きな権力が私たちの生きるための術を少しづつ奪おうとしているのを気付いていても気付かないふりをしてきました。
 今、ようやく問題だと言い始めて、私はそれを意識し、言い続けることのしんどさとあまりにも果てしない無力感と恐れのほんのひと端を見ました。沖縄は70年間、この痛みを背負い、叫び続けてきたのだと思い知ります。
今、村に大きな亀裂をいれても、辺野古で座り込む人たちがいます。機動隊に取り押さえられ、逮捕され時には怪我をしてまで守ろうとしています。その瀬戸際のむこうで、辺野古の海はまだ、青いのです。かかる虹はどうしようもなく、美しいのです。
 その度に私は思います。沖縄は基地の島ではない、沖縄は楽器と歌と虹の島だと。ただ、そうあり続けるために、今でも沖縄の人は、自分の傷をひらいても「基地問題」だと言い続けるのではないのでしょうか。沖縄は償い切れない命の果てにその土に「命こそ宝」との覚悟を刻み付けたのだと思います。
 沖縄は日本の差別と矛盾の縮図だといわれます。ありとあらゆる差別とそして、それを許さなかった人々の戦いが今でも続いています。私たちが沖縄を書いた本を特集するのは沖縄が政治の矛盾を一番重く背負い。それでも、どのような非道にも、無関心にも、権力にも、私たちは戦い続けることはできるのだという希望の島であるからです。
 私はかつて、ひめゆりの学徒の生き残りの方に聞いたことがありますなぜ、あなたは一番辛い、体験を語るのかと彼女ははっきりと二度とあなたたちに同じ思いはさせたくないからよと言いました。
 叫び続けてきた沖縄が、沖縄の人たちがなぜ、今もまだこれだけ苦しまなければならないのか。一体、なぜ、その叫びは今も届かないのか。私はその悔しさを胸に必死になって学び、考えました。これ以上の無関心に、もう耐えることができません。

 ここに集めた本はその覚悟と祈りから紡ぎだされた本たちです。今、その深い慈悲に尊敬と感謝を抱き、まとめたいと思います。


大田昌秀大田昌秀が説く 沖縄戦の深層(高文研、2004年)
軍隊は決して住民を守らない、軍隊そのものを守るのである」。沖縄戦の教訓は国家と軍隊という存在に根源的な疑いを投げかける。多数の住民が日本軍と米軍の両方の犠牲になった沖縄戦。元沖縄県知事の太田は、綿密に悲惨の様相を描いている

創価学会青年部反戦出版委員会打ち砕かれしうるま島(戦争を知らない世代へ1 沖縄編)(第三文明社、1974年)
この本の出版は平和を望むすべての者にとって、当時、大いなる光明だった。やがて絶版となり、この本を失ったことは、平和を望む我々の怒りを呼び覚ました。証言集としての価値を思い、復刻を強く望む。

沖縄「建白書」を実現し未来を拓く島ぐるみ会議編辺野古って、なに? 沖縄の心はひとつ: 727日 沖縄「建白書」を実現し未来を拓く島ぐるみ会議結成大会 発言録(七つ森書館、2014
辺野古での反対運動に関わる様々な人の人間らしい顔が、ウチナーグチに怒りを伴った人間らしい言葉として語られる。ここに人間がいる。 

三上智恵戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ): 辺野古・高江からの祈り大月書店、2015年)
副題に「辺野古・高江からの祈り」とある。祈らなくてはならないほど切羽詰った問題であり、祈りを切実なものとするほど絶望を予感する事態であり、そのなかでも「祈り」を続ける強さをもって行動している人たちが、ここでは等身大に描かれている。同名の映画と共に、ぜひオキナワの心に触れて頂きたい。

比嘉富子白旗の少女(講談社青い鳥文庫、2000年)
ひとりの少女が家族と離れ離れになり、様々な出来事や出会いと別れの中、生き延びて終戦を迎えるまでの沖縄戦の実話。著者が実際に日本兵が沖縄の住民を殺す瞬間を、ガマから見たことも書かれており、この作品で沖縄戦はアメリカからだけでなく、日本兵からも被害に合ったことを知った。本当に怖いのはその国ではなく、人の心である。

岡本太郎沖縄文化論---忘れられた日本 (中公叢書1972)
希代の芸術家だけあって、並外れた直観力で沖縄の風景と文化の根源に迫る1959年の沖縄ノート。生活の必然から生まれる「痛切な生命のやさしさ」に魅せられた著者の繊細な筆致の一方、戦前政府や軍国主義の愚劣さには我が事として憤る。沖縄の矜恃に触れた巻末のエールも見逃せない。

山内徳信憲法を実践する村沖縄・読谷村長奮闘記(明石書店、2001年)
米軍基地内に村役場を立てた元読谷村村長による著書。日米両政府を相手にして基地内に文化の楔として公共施設を建設するための自治体外交の実践。またその闘争の根拠となった日本国憲法の実践史。憲法9条と99条を村長室に掲げ、村政の柱とした。

阿波根昌鴻米軍と農民ー沖縄県伊江島(岩波新書、1973年)
戦後、基地建設のため、農地を取り上げられ餓死者まで出した沖縄の離島伊江島で非服従、非暴力を貫き、大半の基地を返還させ、沖縄のガンジーと呼ばれた著者の運動と思想史。「一、反米的にならないこと 一、怒ったり悪口をいわないこと」から始まる陳情規定は今後も市民運動の指針足りうる異彩を持つ。

阿波根昌鴻命こそ宝ー沖縄反戦の心(岩波新書、1992年)
農民と米軍の続編。本土復帰後、反対運動が消滅していく中で著者が伊江島で反戦平和資料館「ヌチドゥタカラの家」を建設するまでの道程。「平和とは人間の生命を尊ぶこと」といい、誰が戦争をおこすのかを語らなければ、戦争はなくならないという確固たる思想を示す。現在も続く座り込み運動の思想的支柱。

矢代堅二沖繩苦難の歴史から新しい沖繩へ (少年少女20世紀の記録)』(あかね書房、1982年)
沖縄の記紀と万葉といわれる「おもろそうし」に描かれる神代に始まり、[1. アマン世 2. 沖縄世 3. 薩摩世 4. 大和世 5. 戦世と苦世 6. アメリカ世]と、子ども向けながら沖縄の歴史を俯瞰できる一冊。現代沖縄を論じる前に、沖縄の成り立ちを踏まえておくための入門書として最適。

― 【不朽】十冊―

創価大学学生自治会編創立者の語らい1(創学サービス、1995年)
現代文明の行き詰まりに対して、新しい大学・学問の復興の必要性を説いた「スコラ哲学と現代文明」等、創立者・池田大作先生の重要講演が収められている。「真の教養」とは何なのか。私たちに問われ続ける「英知を磨くは何のため」との探求の道標となる1冊。

ヴィクトール・フランクルみすず書房、2002年)
過酷な収容所にあって、人生の意味を問い続ける筆者が、逆に人生から自身の存在の有り様を問い反されるという営為に昇華させていった強靭な生き様。逆境にあってニヒリズムの絶望という陥弄に落ちず、最後までリアリズムの希望を放擲しなかった存在は、そのまま我々の暗がりの中での歩みに曙光となるだろう。

ハンナ・アレント人間の条件(ちくま学芸文庫、1994年)
アレントの主題「全体主義という悪を、普通の人々が積極的に担った」ことについて、原因からの考察が全体主義の起源であり、解決の方途を示したものが人間の条件と言える。「人間」を「個人」でも「集団」でもない「公共を誕生させうるもの」にするための「条件」を人間の条件は提示している。

EH・カー歴史とは何か(岩波新書、1962年)
実証主義の限界を指摘しても、相対主義の闇に陥っても、生きた事実には到着できない。「歴史とは、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります」。現在の眼を通して歴史を見ることの大切さをカーは説くが、学ぶこと全てに関わる構えである。対話のできない人間には生きた事実は見えない。

エドワード・サイード知識人とは何か(平凡社ライブラリー、1998年)
パレスチナ出身、主著オリエンタリズムにて西洋中心主義を批判した著者が、広範な意味での「知識人」について語った講義録。知識人は権力に迎合するのではなく、民衆の側、表象=代弁されない側に立たなければならないと徹して訴え抜いている。

B・ウィルソン、池田大作社会と宗教(聖教文庫、1996年)
新しい宗教運動の指導者と高名な社会学者が、宗教ー仏教ならびに他の宗教ーが人間の重大な関心事に影響を与える際の、倫理・哲学・心理学・治療学・組織・歴史的な現れ方について縦横に語り合う。本書には、今日噴出する宗教に関わる組織的・政治的諸問題が見事に予見されており、その解決への示唆に富む

⑰映画チャップリンの独裁者1940年公開)
最後に独裁者ヒトラーと入れ替わったチャップリン扮する床屋が演壇から兵士たちに平和のことばを語りかける場面を見て、国会前で聞いた皆の日常から紡ぎだされる声を思い出した

映画ガンジー1982年公開)
非暴力の闘いとは、人々の「とらわれ」と「あきらめ」を打ち破ること。それがガンジーの運動。ガンジーが敵と対峙するときのユーモアに注目をして見て欲しい。ユーモアとしてあふれるのは、命を慈しむ心。命を軽んじる思想を憎む怒り。そして、和解を信じる勇気。

カミュペスト(新潮文庫、1969年)
人間は孤立して生きることはできないが、共同には上下関係が必然する。対等な連帯は可能なのか。孤立都市を舞台に団結する雑多な民衆を描く本書は、水平な連帯を構想する上で外せない。鍵は一人の人間として不条理に立ちがることである。命を尊重しない現在の日本社会においてこそ、読むべき古典である。

ミシェル・フーコー監獄の誕生(新潮社、1977年)
「権力は知を生み出す。権力と知は相互に直接絡み合う」。本書は監獄の誕生過程を分析することで、不可視の権力がいかに我々の生活を支配しているかを暴き出す。見せしめから監視=矯正への規格化とは、経済的であるだけでなく知と結び付き内面化される。常識とは虚構に過ぎないと最高峰の知性はいう。

― 【いま】十冊 ―

池田大作君が世界を変えていく(朝日出版社、2002年)
「「市民が二名死亡」などと簡単に言うな。「ホセが死んだ」「マリアが死んだ」と泣け。」この言葉は私の戦争観を変えた。9.11直後に出版された本書のテーマは非暴力、世界宗教の普遍性など多岐に渡るが、その根底に流れているのは1人の犠牲をも絶対に許さないという生命尊厳の人間主義である。

自由と平和のための京大有志の会著、塚本 やすし絵戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」(朝日新聞出版、20159
京大有志の会の声明文をこども語訳するという発想の優しさはどうだろう。それに加えて、こども語訳に絵をつけるという発想。生命をいとおしむ発想から生まれたこの絵本は、限りなく優しい。その優しさで戦争という「残酷」を描いている。

現代思想 201510月臨時増刊号 総特集:安保法案を問う(青土社2015年)
安保法制が抱える問題点を各分野の専門家たちが解説した論文集。憲法(立憲主義)、政治思想(自由と民主主義)、歴史、経済(貧困と格差)、教育、安全保障、文化、メディア、知識人論、社会運動の現場など、多面的に今回の法律の問題を考えるための導きの書。

高橋源一郎SEALDs『民主主義ってなんだ? 』(河出書房新社、2015年)
これほど個性豊かで、しかも、世間的には非日常とみえる世界を、日常として生きてきた若者はいるだろうか。SEALDsメンバーに高橋源一郎がインタビュー。前半では、彼らの運動のはじまりから「いま」を語る。後半の、立憲主義と民主主義の相互補完についての議論は必読。

中野晃一右傾化する日本政治(岩波新書、2015年)
日本の右傾化はどこから始まるのか。冷戦とその崩壊から現在へ至る複雑な内外の政治史を丁寧に紐解き、結末としての人間を人間として扱わないアベ政治を考察する。著者は自由主義勢力と革新勢力の再生と連携にそのオルタナティブを見出す。「まだ、大丈夫」と言っている時こそ実は「手遅れ」なのだ。

木村草太集団的自衛権はなぜ違憲なのか(晶文社、2015年)
「憲法を無視するということは、人類の叡智を無視するということだ」。殆どの憲法学者が違憲と認める安保法。その中核となる集団的自衛権の違憲性を、閣議決定から法案通過へ至る審議を時系列で検証する。憲法を学ぶとは、権力者が犯しがちな失敗を学ぶこと。喫緊の錯誤に抗う知性鍛える一書である。

SEALDs『民主主義ってこれだ!(大月書店、2015年)
戦争法案を止めるために立ち上がったSEALDsが、ここまで大きな存在になるとは、だれが想像しただろう。参議院特別委員会公聴会に出席したメンバーの奥田愛基氏の意見陳述全文をはじめ、東北から沖縄に至るまで広まったSEALDsメンバーの素顔とスピーチを収録。

神野直彦「人間国家」への改革 参加保障型の福祉社会をつくる(NHK出版、2015年)
市場拡大と政府縮小の潮流は過剰な豊かさと過酷な貧困を自然環境と人的環境を飽くなく蕩尽しているもたらし、。必要なことは人間を手段と見る事業国家から、人間の生を最上位に位置づける人間国家への転換である。本書は故・宇沢弘文門下の財政学の大家が経済学から民主主義の回復目指す提言の一書。

矢野久美子ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者(中新書、2014年)
人間を「無効化」する全体主義と対決し20世紀を最も真摯に生き抜いた女性哲学者アーレント。本書はその強靱で根源的な思索の軌跡を辿る最良の評伝だ。平凡な人間が自分で考えることを辞める時、悲劇は業務にすり替わる。アーレントの思索は、言語を使ってものを考えることの大切さを語り続けている。

赤坂真理愛と暴力の戦後とその後(講談社現代新書、2014年)
「戦後レジームからの脱却」を掲げるアベ政治だが、脱却すべき戦後日本とは何だったのか。本書は作家が自分史を振り返りながら戦後日本の特色を「愛と暴力」と読み解く。建前は必要だが時として暴力と機能する。建前さえ一切ないアベ政治は、むき出しの暴力だ。歴史を知ることと違和感を大切にしたい。